第1回 船山基紀

アルバム15タイトルがオリジナル・リマスター盤でリリースされることを記念した特別コンテンツ。
Winkサウンドを作ったキーマンにリマスター音源を聴いてもらい、さらに当時のお話までうかがってしまおうという企画を全3回にわたってお送りします。
突撃してくれるのは書籍『ニッポンの編曲家』等の編著を手がけているDU BOOKS(ディスクユニオン)の田渕浩久さんです!

第1回となる今回お迎えするのは、3rdシングル「愛がとまらない~Turn it into love~」から、
4thアルバム『Twin Memories』までメイン・アレンジャーとして君臨した船山基紀さん。
フェアライトをいち早く導入し、ジャパニーズ・ユーロビートを牽引した巨匠にリマスター音源のこと、当時の制作秘話について聞く。


インタビュー&文:田渕浩久(DU BOOKS)


制作する時に目指してた音がようやく目の前に来たっていう感覚だね。
30年経って、そんな時代になったんだっていう。

――今回Winkがデビュー30周年で全アルバムがリマスターされることになりまして、まずその第1弾として最初の5作、『Moonlight Serenade』から『Velvet』が7月11日に発売されます。先んじて船山さんに、今回新たにリマスターされた音源を聴いていただいたわけですが、いかがでしたか?

船山 当時は日々仕事に追われてたんで、レコードやCDで完成盤をいただいても聴くことはほとんどなかったんですよ。だから当時の音源との比較っていう意味では無責任なことは言えないんだけど。

――そもそも音楽家の方々は、音質よりも音楽を聴いていらっしゃるので音質はあまり気にしないという方が多いですよね。

船山 そう。僕もまさにそういうタイプなんだけど、当時、CDにフォーマットが移行していく中で、スタジオでモニターした音がCDになるとどうしてもこぢんまりしてしまうっていう感覚はあって、でもどうやらレコードがなくなって完全にCDだけの時代がきそうだっていう、まさにその時代ですよね、僕がWinkをやってたのは。でもひとつ言えるのは、レコーディングしてるスタジオではもちろん音にこだわってるんで、音質が向上した=当時レコーディング・スタジオで出していた、聴いていた音に近いっていうことで間違いないと思いますよ。

――現在のリマスタリング事情、ハイレゾあるいはmp3の氾濫等々について、船山さんはどういう考えをお持ちですか?

船山 CDが出始めた頃っていうのは、イコライザーのメーターが赤いゾーンにかかるだけでNGだったんで、どうしても音量・音圧を下げるしかなかったと思うんだけど、最近のCDって音量も音圧も上がって、むしろ上がったところで貼り付いてるって感じかなぁ。うるさいわけじゃないんだけど、耳をそばだてる必要がないというか。制作する時に目指してた音がようやく目の前に来たっていう感覚ですね。30年経って、そんな時代になったんだっていう......それがWinkの音でっていうのは嬉しいよね。オーディオ評論家じゃないからなんて言えばいいかわからないけど、当時ワクワクしていた音が30年を経てよみがえったというか。

――船山さんがアレンジを構築される際、そのサウンドの音像は左右ステレオの2チャンネルに対して、どう広がっているのでしょうか。

船山 サラウンドに近いんだけど、基本となる左右のLRがあるでしょ。その左右の前方奥にまた左右、それとセンターの距離感として前方と自分の頭のあたりの6つくらいは普遍的にずっとあります。リヴァーブのかけ方もその中のイメージでかけるし、ピアノを少し奥にとか、歌をもっと手前にとかっていうのもそういう中で考えてますね。


Winkのサウンドは実機のシンセが出すノイズやピッチの不安定さ、
そういうのもサウンドの一部になってます。

――プロデューサーの水橋さんとのやりとりはどんな感じだったんですか?

船山 水橋さんっていい意味でユル~イ方でね、打ち合わせにもレコーディングの現場にも顔は出すんだけど、指示が感覚的で、いわゆる天才肌。最初にやった「愛が止まらない」はカバーだったんで、原曲のサウンド+αのイメージですよね。これは僕の方法論に基づいてサウンドを作ったんですが、ヒットしてくれたのでその流れでやらせてもらったという感じかな。水橋さんは典型的なミュージシャン気質で、言ってしまえば最後の、絵に書いたような業界ディレクターでした。

――当時の制作の思い出はと聞かれると?

船山 一緒にやっていたシンセ・プログラマーの助川宏くんのアシスタントの人たちが、PWL、ストック・エイトキン・ウォーターマン(イギリスのプロデューサーチーム)の情報を必死で集めてましたね。苦労したのがスネアとシンセベースの音。なんの機材を使ってるのかぜんぜんわからなくてね、その後(ヤマハの)DX-7と(オーバーハイムの)OB-8に落ち着くんだけど、どこか違うなぁって。あとブラスの音、(「涙をみせないで」のイントロを口ずさむ)この音はフェアライトと他の何かの音を混ぜてるんだろうなとかね。

――まずは完コピを目指すんですね?

船山 そう。曲が決まった段階でまずは原曲の分析をして、ベースの動きからノイズの位置まで頭に入れて、オケを組み立ててましたね。だからスタジオではスタートから数時間はみんな、静まり返った中でMC-4(ローランドのプログラマブル・シーケンサー)のテンキーをカチャカチャ打ってるだけ(笑)。13時からスタジオが始まったとして、18時くらいからですね、実際に音を出し始めるのは。その上で、原曲を超えられるようにいろいろ施していく。僕らは後出しなので有利だし、いろんなことができたっていうのはあるでしょうね。あとひとつ、日本語の歌詞が乗るので、原曲のままのスカスカなオケだとあんまりフィットしないんですよ。だからリヴァーブを強めにしたり、音を厚くしたりしてね。原曲に勝った!って思えるまでガチャガチャとやってましたよ。それで骨組みができたら上モノを弾いてもらうためにキーボードで山田秀俊、富樫春生、難波弘之、あとは矢嶋マキっていうこともあったかな、弾いてもらって。最後にギターで今剛が夜9時くらいに来るっていう感じでしたね。

――まさに今回の発売される『Twin Memories』から『Velvet』の間に、船山さんから門倉聡さんにWinkサウンドのバトンが渡された構図ですが、その後のWinkサウンドをどう見ていましたか?

船山 僕らがやってた時よりスマートに作業してる印象はあるかなぁ。僕らは泥臭くやってましたからね。DX-7を3台同時に鳴らしてみたり、OB-8を4台鳴らしてみたりとか、もう"これでもか!"っていう感じで。そうすると部屋に熱がこもっちゃって、汗ダラダラ流しながらやってたからね。MIDIケーブルにまみれながら(笑)。

――今回のリマスター、当時オリジナル盤で聴いていた人ももちろんですが、若い人にも聴いてもらいたいですよね。

船山 ほんとそう思う。日本のポップスは1960年代以降から、それこそ乃木坂46まで、音符的にはなんら変わってないんですよ。その見せ方がサウンドの違いであって、Winkの頃はシンセやフェアライトによってそれをやっていたっていうだけでね。昔ながらの楽器の音ではないサウンドでいろいろやった最初の時代なのかな。むしろ今はそれがパソコンのソフトとして簡単に、しかも安く手に入るから大変だと思うよ。音色のプリセットが何千とかあるでしょ。だから膨大にある情報をうまく制御して使えた人が勝ち、みたいなところはあるかもね。音楽というより情報、ITを制したものが勝っちゃう世界。でもソフトシンセは優秀すぎるから、ある意味で無機質なの。Winkのサウンドは実機のシンセが出すノイズやピッチの不安定さ、そういうのもサウンドの一部になってるから、若い人が聴くと新鮮に感じるかもしれないよ。かといって今、昔の機材使って同じようにやれって言われてもやりたくないけど。なにせ大変だったから(笑)。


[総評]
30周年を記念した今回のリマスター盤は、オリジナルのマスターテープからリマスタリングが行われた、デジタル・リマスターならぬオリジナル・リマスター盤である。ソースとなるのは30年前のテープ。劣化やハイ落ちの恐れがある中でのデジタル化作業だったことは想像できるが、いわゆるCDスペック(16bit/44.1kHz)で視聴しても、オケはより強靭でしなやかになり、ふたりのボーカルが"一歩近くにきた"印象である。劇的な、奇をてらうような手直しはもちろんされておらず、あくまでナチュラルなグレードアップといったところか。船山基紀によるフェアライト・サウンドの円熟期と言えるこの時代。当時の空気感まで感じさせるWinkブレイク期のエッジーなサウンド群に今一度触れてみていただきたい。


船山基紀(ふなやま・もとき)プロフィール

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東京都出身。早稲田大学在学中から、先輩が勤務していたヤマハ音楽振興会に出入りするようになり、独学で編曲法を習得。デビュー作は1975年の中島みゆき「アザミ嬢のララバイ」。77年には沢田研二の「勝手にしやがれ」でレコード大賞&編曲賞を受賞。フェアライトをいち早く導入したことでも知られ、1980年代後半にはWinkや森川由加里らのジャパニーズ・ユーロビートのムーブメントを牽引した。近年はTOKIOの「AMBITIOUS JAPAN!」やKinKi Kids「薔薇と太陽」などを手がけている。また先日まで放送されていたドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season~』の主題歌King & Princeの「シンデレラガール」も船山によるアレンジである。

[船山基紀が編曲を手がけた代表曲]
五輪真弓「恋人よ」、渡辺真知子「迷い道」「かもめが翔んだ日」、田原俊彦「ハッとして! Good」「NINJIN娘」、稲垣潤一「ドラマティック・レイン」、C-C-B「Romanticが止まらない」「Lucky Chanceをもう一度」、小泉今日子「迷宮のアンドローラ」、中山美穂「派手!!!」「WAKU WAKU させて」、少年隊「仮面舞踏会」「ABC」、Wink「愛が止まらない~Turn It Into Love~」「淋しい熱帯魚」、TOKIO「AMBITIOUS JAPAN!」「宙船」、KinKi Kids「ジェットコースター・ロマンス」「薔薇と太陽」、King & Prince「シンデレラガール」他